かくいう私の妻も、ドラマチックなシチュエーションにあこがれていたようです。
まだ娘が妻のお腹にいた頃。安定期に入って喜ぶ私に向かって、妻はお腹を撫でながら冷笑してみせました。
「何も知らずに、無邪気に喜んでるけど…」
「なんだよ」
彼女は、冷たい声で言い放ちました。
「私の子かどうかわからないわよ」
「?」
沈黙がその場を支配しました。
「いや、おまえの腹に入ってるし、おまえの子だろ」
「あ、間違えた!」
要するに「あなたの子かどうか、わからないわよ」と言って、悪女を気取ってみたかったらしいのです。しかしウッカリゆえにアホな決着となりました。
妻は悔しがって「生まれてからもう一度やる!」と息巻いていましたが、その機会は訪れませんでした。娘があまりに私にそっくりで「あなたの子かどうか」と言う余地が、ひとかけらもなかったからです。
「似すぎだー。クローンじゃない?」
「俺は男だよ!」
「うーん、本当に私の子かどうかわからないわー」
「それはもう聞いたよ!」
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