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2014年4月24日木曜日

「天才! 成功する人々の法則」⑤ 「天才」だけでは成功できない

 この話の主人公はIQ195という、百万人に一人の天才、クリス・ランガン。いくつもの学問に通じ、語学も堪能。クイズ番組なら確実に優勝できるほどの知識の持ち主。しかし、彼は田舎に引きこもったまま、いつまでも社会にでることはありません。

 その理由は、彼の生い立ちにありました。彼が育った環境は、アル中の父親による虐待とネグレクトの家庭。荒んだ人間関係を見て育った彼は、人に対する信頼感や、人間関係を築くスキルを身に付けられないまま育ったのです。
 彼の知能は極めて高いものです。しかし、それを他人に納得させるための交渉ができません。
 トラブルにあったときも、人に頼み、協力を得て乗り越えることができません。人と関わる能力が決定的に欠けているために、能力を生かせないのです。


 こうした対人スキルが、経済階級によって違うと主張するのは、アネット・ラローという社会学者。
 彼によれば、中産階級の家庭と、貧しい家庭との子育ての方法に、明らかに別の傾向があるというのです。

 中産階級の親たちは子供と積極的に関わり、様々な体験を与え、才能や考えを育てようとします。また、
「親は我が子と話し合い、子供たちに理由を説明する。ただ命令を下したりしない。子どもとは、言い返したり、交渉したり、権威ある立場の大人に質問したりするものだと思っている」(p.119)
 子供はそうした環境から、多くの技能を学ぶだけでなく、人と関わる方法、気持ちの良い会話、自分の考えを伝える方法といった、社会的スキルを学ぶのです。

 貧しい家庭の親たちは、子供は勝手に育つものだと思っていて、環境を整えたり、応援したりしません。現在の環境の中で育つに任せます。また先生や医者といった権威には従順で、子供が交渉したり、質問したりすることもすすめません。
 子供たちは技能を学び損なうだけではなく、社会の中で自分を表現するスキルも、学びそこなうのです。

 社会に出れば、社会的スキルのある中産階級の子供は人と協力し、必要な交渉をできるので、生きていく上で有利になり、また高収入を得る、というのがグラッドウェルの結論です。


 ここから感想。

 天才というと、「いいよね。何でも簡単に出来るよね」、とつい考えてしまいがちです。しかし知的能力があっても、人とつながる能力がないと、社会的な成功は出来ません。
 どんなに高性能なパソコンであっても、ネットに繋がっていなければ何も出来ないように。

 クリスのように虐待やネグレクトにあった人は、人間関係が苦手になってしまうことが多いのです。人や社会を信じる気持ちを壊されてしまっているので、人とつながることに積極的になれません。孤立して追い詰められても、社会的なサポートを利用できず、ますます孤立してしまったり。
 また、人と否定的な関わり方しかしていないので、上手く交渉するスキルもありません。

 人とつながるためには、話し方や礼儀作法のようなスキルが必要です。それと同時に、人間関係に前向きな気持を持っていることも必要です。

 子供が最初に出会う人間関係は、家族です。
 以前に、親の接し方がいじめっこ、いじめられっ子を育てるという記事を書きましたが(「子供をいじめから守るために」)、親が子供に植え付ける人間観の重要さを感じないわけにはいきません。

 親が子供を肯定して、良い関係を築くこと。
 発言したり交渉したりする権利を認めること。
 能力を伸ばすことに熱心になってやること。

 エジソンや、坂本龍馬など、偉人の子供時代の話では、子供を信じ、やさしく関わる親の姿がよく出てきます。それが、彼らの才能を引き出しているのでしょう。

付記
 「最近の教育理論では、知能や運動神経よりも気質のほうがずっと大切である」という視点からの面白い記事があったので、リンクを張っておきます。
「子供の習い事にお金をかけるより大事なこと」(日経ビジネスオンライン)
 オススメです。

2014年4月20日日曜日

「天才! 成功する人々の法則」④ 天才に至る練習方法

 ①「マタイ効果とは」
 ②「一万時間の法則とは?」
 ③「一万時間の法則への反論」

 そんなわけで、どうしたら子供を伸ばしてやることが出来るのか。

 斉藤孝氏に「五輪の身体」という著書があります。オリンピック選手に、身体についてのインタビューをした本です。そのあとがきで「伸びる選手かどうかは、たったひとつの質問でわかる」と言っています。
 その質問とは、 「今、何を練習していますか?」。

 伸びる選手は必ず「○○の能力を伸ばすために、□□の練習をしています」と、明確な課題と練習ポイントを口にするそうです。ただ長時間の練習をしているわけではなく、自分に必要なものが何かを考え、その部分を伸ばすために、時間を有効に使っているのです。
 こうした選手と、ただ繰り返して練習する選手とでは、同じ時間だけ練習していても上達には雲泥の差が生じます。

 モンテッソーリ教具の特徴の一つが、やっている子供自身が、自分のしたことが正しいかどうかを自分で判断して、修正できるように設計されていることです。
 たとえば「差し込み円柱」は、ピッタリ合った穴に入ったことが、自然にわかるようになっています。円柱よりも小さな穴だと入りませんし、大きすぎる穴だとガタガタになって、間違っていることがわかります。大きさを10段階に分けた積み木「ピンクタワー」も、積み方が違えば形がいびつになり、一見して違うとわかるようになっています。
 結果を見て、すぐに修正できるように設計されているので、繰り返しがそのまま学びにつながるのだと言えます。

 この考え方は、他のことを学ぶ上でも有効です。つまり、「自分の問題点を意識でき、上達するための方法がわかる」ようなフィードバックが確立していれば、練習時間が結果につながるのです。

 前回書いたハンブリック教授が「指導の良否が問題」と言っていたことは、これを指しているのでしょう。良い先生は、生徒の問題点を見つけ、すぐにフィードバックしてくれます。適度な難易度で課題を出すことで、生徒は効率よく上達の階段を上っていけるでしょう。マンツーマンでないと難しいかもしれませんが…。

 ビートルズやビル・ゲイツの場合は指導者はいませんでしたが、専門知識を蓄えたり、自分の完成を磨くことによって、どうすれば上達できるかがわかるようになっていたと言えます。だから、時間をかけるに比例して上達することができたのです。

 ということで、子供のために親ができること。

 すでに子供の方向が決まっている人は、
「問題点をみつけ、適切な課題を出してくれる指導者を見つける」 

 まだ決まっていない人は、
「子供が自ら学び、伸びていけるような意志と感性を育ててやる」
 という事になりそうですね。
 
 ウチも、将来何になるかわからないクチです。



付記
 有効なフィードバックを与えるという点では、コンピュータやゲームは無視できない存在です。学習ゲームについては、また改めて書こうと思います。

2014年4月17日木曜日

「天才! 成功する人々の法則」③ 「一万時間の法則」への反論

①はこちら
②はこちら

 前回書いていた「一万時間の法則」。
 天才的な能力を持っている人は、それまでに例外なく一万時間の訓練を積んでいる、という法則です。この法則については、先日のナショナルジオグラフィックのニュースに反論記事が載っていました。

 詳しくは元の記事を読んでいただくとして(元記事はこちら)、概要をざっと書くと、ミシガン大学のハンブリック教授たちは、一万時間が本当に一流の選手や芸術家を育てるのか、という課題を調べなおしたそうです。
 改めて調べたところ、音楽家では一万時間~三万時間というひらきがあり、チェスの名人では832時間(少ない!)から、二万四千時間あまりというひらきがあったとのこと。そこから、
「これだけばらつきがあるのでは、一万時間という区切りに意味を見出すことはできない」
「成功の要因のうち練習 が占める割合は音楽で30%、チェスで34%にすぎない」
「良い指導を受けたかどうかが問題」
 という指摘をしていました。

 ここからは私の感想。 

 一万時間の法則については、多分に誤解されているところがあると思います。この法則が示しているのは、
「才能があっても、開花するまでには一万時間が必要」
 という意味であって、
「才能のない人でも、一万時間訓練すれば天才になれる」
 と言っているわけではないのです。

 たとえば、前回書いた音楽家の話では、すでに音楽家としてある程度成功している人を調査対象にしています。もしかしたら、一万時間の練習をしても上達しなかった人がいるかもしれませんが、その人は調査対象には含まれていないのです。

 このことは、社会人としての実感からも言えます。
 一万時間といえば、会社員ならだいたい五年間あまりの勤務時間に相当します。五年間勤務した人が、みんな名人レベルになるかというと…。うーん。

 長く練習しても、ルーチンワークを繰り返しているだけでは、ある段階から先に進むことはできません。上達することに使っている時間と、足踏みをすることに使っている時間の比率が重要で、何万時間が必要かはそれによって変わるはず。
 単に、たくさんの時間をかけさせれば伸びる、というわけではないのです。

 ハンブリック教授にしても、練習が必要ないと言っているわけではありません。ただ、時間の長さがすべてを決めているわけではないし、開花するまでに必要な時間は個人によって違うので、一万時間に特別な意味は無い。それ以外の要因をもっと研究する必要がある、というのがハンブリック教授の意見でした。
 どちらかといえば、ハンブリック教授に賛成。グラッドウェル教授の言う一万時間の法則には、補足をつける必要がありそうです。

 それでは、無駄なく上達するために必要なものはなにか?
 という問題については、次回に書きたいと思います。



2014年4月13日日曜日

「天才! 成功する人々の法則」…② 「一万時間の法則」とは

 ①「マタイ効果とは」はこちら

 引き続き「天才! 成功する人々の法則」(マルコム・グラッドウェル)の話です。
 第二章では、たくさんの学生音楽家を調査した結果を扱っています。

 技術レベルのバラバラな学生たちにこれまでの練習時間をアンケート調査してみたところ、レベルと能力の間に、驚くほど明確な相関関係があったというのです。技術の差は、そのまま練習時間の差で、天才的レベルの人は例外なく一万時間以上の練習を行っていたとのこと。
 少ない時間で天才的なレベルに達した「飛び抜けた才能の人」はおらず、大量の練習を行いながら上達していない「全く才能のない人」もいなかったということです。

 グラッドウェルは、それ以外の例でも一万時間の例を上げており、ビートルズもライブハウスで集中する時間を持っていたし、マイクロソフトのビル・ゲイツも、アップルのスティーブ・ジョブズも、同じように長いプログラミングの学習時間を持っていたといいます。
 つまり、天才のレベルは練習時間次第、というのがこの章の内容でした。

 「よし、では今からガッチリ習い事をさせて天才に!」と考えたくなるのが親心ですが、どうでしょうか?

 一万時間の練習といえば、一日三時間の練習を十年間。五歳で練習を始めた子供が一万時間に達するのは十五歳です。
 五、六歳なら、言われるままに練習することはあるかもしれません。しかし小学校高学年ともなれば、言われるままに三時間の練習をすることなどありえません。

 つまり子供が進んでやる意志を持っていない限り、一万時間の法則を達成することは不可能なわけです。親の望む方向へ進ませたければ、親の価値観も含めて教える必要があるでしょう。音楽への愛を語り聞かせるとか…。

 逆に、子供自身の好きなことをやらせれば大丈夫か?
 親の希望に進ませるよりは可能性がありそうです。とはいえ、小さい子供のやりたがることはしょっちゅう変わりますよね。一万時間に達するかどうかは神のみぞ知る。

 としたら、一番できそうなのは子供の間に体力と意志力を鍛えておき、意思が固まった時に全力で応援することでしょうか。ビートルズにせよ、ビル・ゲイツにせよ、一万時間に集中するようになったのは十代後半からです。一日十数時間の練習を、自らの意思で重ねることで、一気に力をつけたのです。
 もっとも、どんな人でもそんな強い意思を持つ時期がくるのか、というとそれもわかりませんよね。少なくとも私は経験がありません(笑)。

 「一万時間の法則」というと、誰でも一万時間で天才になれそうな気になります。でも本当のところは、意思と偶然、チャンスの一致があって、はじめて成り立つことなのかもしれません。そうした幸運も含めて「天才」なのでしょう。

 この一万時間の法則、最近は反論も出てきています。次回は、その反論について。

 ③はこちら



2014年4月9日水曜日

「天才! 成功する人々の法則」…①マタイ効果…有利な人がますます有利になる

 「天才! 成功する人々の法則」マルコム・グラッドウェル著 勝間和代 訳
 という本を読みました。

 この本は、いわゆる才能と言われるものが、単純な「生まれつきの能力」だけではないことを示して、大きな話題となりました。とくに話題になったのは、第一章の「マタイ効果」と、第二章の「一万時間の法則」。

 マタイ効果というのは、聖書のマタイ伝にある「持っている人は与えられて、さらに豊かになるが、持ってない人は持っているものまで取り上げられるであろう」という言葉からつけられた名前。最初に有利な立場にあることで、さらに有利になってゆくという状況を表していう言葉です。

 では、このマタイ効果が、どんなふうに才能に関わってくるのか。

 著者が主張するのは「学年の中で、早く生まれたほうが有利になる」法則。
 日本では、4月生まれから3月生まれまでが一学年ですよね。小学校1年生の春なら、4月生まれは満7歳、3月生まれは満6歳。一年の差があります。身長も4月生まれは120センチ、3月生まれは114センチで(男子)、6センチの差があります。

 もし、一年生にサッカーをさせれば、当然4月生まれのほうが3月生まれよりも上手にできる確率が高いでしょう。
 レギュラー選手を選ぶなら、4月生まれが選ばれる確率が高い。レギュラーで試合経験を積むことによって、4月生まれの子はさらに上手になります。つまり、単に早く生まれているだけなのに、4月生まれの方が多くのチャンスをもらえ、能力を伸ばすことができるのです。

 グラッドウェルはスポーツ選手の誕生日について調べた結果、一流選手の誕生日が、学年の頭に集中していることを確かめています。そして「もしこうした区切りをもっと細かくすれば、もっと多くの天才的選手の活躍が見られるはず」としています。

 子供を生むときに、時期を選んで生むことは現実的ではありませんし、すでに生まれている子供については誕生日を変えることはできません。
 親にできることは、今の学年の中での能力が、必ずしも本当の能力を表さないと認識しておくこと。そして、最初の状況にかかわらず、チャンスを与えようとすることです。

②「一万時間の法則」とは? はこちら